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2007年 06月 19日

ALS(筋萎縮性側索硬化症) その30

ALSとは何か

ここまでの話はこちらから


また間が空いてしまいご心配をおかけしました。
文章が感情的になり反省しておりました。
冷却期間が必要でした。

この記事を書くのは、情報の少ないALSという病気について、情報を必要とされる方に読んで頂く為です。
この病気にかかった本人たる父は、今その病気について語る事は出来ません。
そしてボクは、この病気について本当に理解しているとは思っていません。
途切れ途切れの記憶を繋げて、無理やり文章にしているだけです。
そんな恥ずかしい内容ですが、ALS患者のひとつの記録として残したいと思います。
父もそれを望んでいる、そう信じます。

ご心配をおかけしました事を重ねてお詫び致します。




*** ALSという病気についてボクが見聞きした事を書いています。興味がない方は読み飛ばして下さい ***


この内容に興味の有る方は下のMOREをクリックの上、先にお進み下さい。







平成15年10月13日体育の日。
おとといより元気になっていて欲しい、退院に一歩近づいて欲しい。
そう思いながら父の病室を訪ねる。

来たよ〜!

次の瞬間ボクは言葉が止まった。
ベッドに横たわる父の姿は衰弱の極みに見える。

薄く開いた目蓋から覗く瞳は、虚空を見つめて動こうともしない。
輝きを失い生気の無い眼。
たった二日でこんなにも弱ってしまうものなのか…


気分はどうなの?
母に目配せをしながら、父の眼を覗き込んで聞く。
仰向けに横たわった父は、顔を動かさず眼だけでボクを見る。
「…」
眼の動きが調子の良くない事を伝える。

ボクは何を父に話しかけたのだろうか?
おなかの傷の治り具合?
胃瘻で体力回復しないとね?
介護ベッドが実家に来たから早く帰ろう?
それとも…当たり障りの無い病気とは関係無い事?

何をしゃべったか覚えていない。
こんなにも衰えた父の姿を見て動揺していた。
ああ、これはもうダメなのか…
心の中でその思いがグルグル回る。

入院している病院は体育の日を含めて連休で、休日診療体制。
父の主治医である院長先生はお休み。
母が言うには、この父の状況を相談しようにも、当直の若い先生ではハッキリしないようだ。
人工呼吸器はいつ着けるのか?
もう今がその時なんじゃないか?
まだ大丈夫なのか?
回診に来て脈拍、血圧など一通りチェックをするが、それ以上の事は特に何も無い…

父が電動ベッドを操作して体を起こそうとする。
トイレだという。
立ち上がってくる背もたれに合わせて、父は起き上がって来るのだが、自分の体を自分で支える事が出来ない。
ボクは父の肩にしっかりと手を添えて、倒れないようにしなければならなかった。
そして尿瓶をあてがってもらうようだ。
ボクは席を外す。
おとといまではひとりで出来たのに…

だがここでボクが暗い顔を見せるわけにはいかない。
父にはまだまだ元気でいてもらいたいのだ。
希望を持ち続けてもらいたいのだ。

用が済んだ父に向かって笑いながら話しかける。
今は席を外したけど、今度家に帰ったらオレもその瓶運ぶからね。
まあ、胃瘻でしっかり栄養とればその瓶使わなくて済むから、オレはそんなに心配してないよ。
家に来たベッドは新品だから、病院のより使い心地が良いはずだよ。

だが父の顔に笑顔は無い。
時折眼を開くが、そこには力は無い。
うつろな眼…

父のそばに長くいるのも更に体に障る気がして、長居せずに帰る事にする。
ここにボクがいても何も出来ない。

病室を出て母と話す。
こんなに弱ってしまっては、あさって15日に当初の予定通り退院は出来そうも無いね。

相談しようにも院長先生がいないから、わからないんだよ。
私も今朝病院に来ておとうさんの顔見てびっくりしたんだよ。
昨日まではひとりで立てたんだけどねえ。
人工呼吸器いつ着けるのかねえ。
息するのがだいぶ辛そうなんだよ。
明日は平日で院長先生来るだろうから来たらすぐに相談するよ。
退院の事も院長先生から何も聞いて無いしねえ。

うん、そうだね、明日になれば相談出来るね。
お願いします。

そして、もう一度父の病室に戻る。
じゃあ、オレ帰るから。
またすぐ来るよ。
早く仕事が終わったら明日14日の夜、そうじゃなければあさっての15日の夜ね。

父の手を握る。
痩せた手。
けれど温かい手。

父の眼がボクをじっと見る…
もちろん言葉は無い。
言葉を失う病気ALS。
筆談する力もその日の父には無かった。

ああ、あのときあなたは何をボクに言いたかったのだろう。
帰るな、もっとここに居てくれ。
そう言ってたの?
だがボクはその言葉を読み取れなかった。読み取り損なった。

ボクは父の手を離すと、努めて笑顔で言った。
じゃあまたね。
父の眼から目線をずらすとボクは病室を去った。

by falcon65 | 2007-06-19 22:36 | ALS筋萎縮性側索硬化症


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