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2007年 06月 07日

ALS(筋萎縮性側索硬化症) その29

ALSとは何か

ここまでの話はこちらから


*** ALSという病気についてボクが見聞きした事を書いています。興味がない方は読み飛ばして下さい ***


この内容に興味の有る方は下のMOREをクリックの上、先にお進み下さい。






平成15年10月、当初の退院予定は15日。
あと数日でその日が来る。
「傷はもうすぐくっつくでしょ、あと少しで家に帰れるよ。」
父を励ます。
ボクは直接胃瘻の傷口を見ていないが、母によればだいぶ綺麗になったとの事。

父にはそう言って励ました。
だが、心の中では本当に退院出来るのだろうかと訝っていた。
あまりにも体が弱っている。
もう少し病院にいて、体力の回復をさせてもらった方が良いのではないか。
でもそんな事は父には言えない。
家に帰る事をあんなに楽しみにしている。
それが先延ばしになったら、どんなに落ち込むか。
もっと弱ってしまうのではないだろうか。

もっとも病院にいるから何か治療をしているかというと、何もしていない。
ALSは治療法が未だ見つからない病気。
ベッドに横たわって身体を休め、口からのチューブで流動食を胃袋に入れ、点滴で水分を摂っているだけだ。
時間ごとに体温や脈拍、血圧の測定をする事だけが治療らしい事だろうか。



この年の体育の日は13日の月曜日になっていて、11日土曜日から病院は3日間の休日診療体制になる。



10月11日、ボクは数日ぶりに見舞いに訪れた。
ベッドに横たわる父の姿は痛々しい。
げっそり痩せたその顔は、もう骨と皮だけのように見える。

「来たよ〜!」
笑顔を作って、明るい声で元気よく父に声をかける。
父はギョロリと目玉を動かしてボクの顔を凝視する。
「う、う、あ…」
折り畳んであるパイプ椅子を指差してここに座れと言っている。
「どう?もう傷はくっついた?」
「う〜…」
目の動きでまだだと言っている。
母が、
「もうだいぶ綺麗になって来ているから、もうすぐだよ。」
という。

12日日曜日に自宅には介護用ベッドが届く事になっている。
痰の吸引機は個人用の物をすでに病院で使っていて、母が家に帰ってから使う練習をしている。
退院の準備は整った。
あとは父次第。
父の体力次第。

なんだかんだと世間話をする。
しゃべるのはボクと母。
父はそれを聞いて、頷くか首を振るか、どうしても必要ならメモ用紙にたどたどしく文字を書く。
考え考え、つっかえながら。
息が荒い。
呼吸がずいぶん辛そうだ。
表情は…
ほとんど笑顔は無くなって来ている。
だいぶ辛いのだろう。

そうこうしているうちに、父が身体を起こそうとする。
電動ベッドの背もたれを立て、立ち上がろうとする。
「大丈夫?」
父の肩に手を添えて、改めて感じる。
ああっ、こんなに骨張ってしまって…
痩せてしまった父の身体を手のひらではっきりと知った。

立ってどうするのかと聞くと、
「う〜」
っとトイレの方を顎でしゃくる。
母が、
「うん、ひとりで行けるから大丈夫だよ。まだまだ寝たきりになってもらっちゃ困るからねえ。」
父に向かって大きく笑いながら言う。
その言葉を背中に聞きながら、父はヨロヨロとトイレに歩いてゆく。
点滴のスタンドをコロコロと引きずって。

ボクはその姿を見て安堵する。
こんなに痩せても立ってひとりで歩けるんだから、やっぱり大丈夫。
15日には無理かもしれないけど、もうすぐ退院出来る。
そうしたら、実家での父の介護が始まる。
どんな生活になるんだろうか。
なんにせよ、父を早く家に返してあげたい。
いろいろ起きるだろうけど、その時はその時、がんばるしかない。

少し安心したボクは1日おいての13日月曜日、体育の日にまたお見舞いに来る事を告げて病室を後にした。

by falcon65 | 2007-06-07 19:28 | ALS筋萎縮性側索硬化症


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